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★このページの初出 2020年2月22日
★このページの最終更新日 2020年2月22日
2.父親藤五郎はなぜ「出府」したのか?
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長松一家が磔(はりつけ)の刑に処される原因は、長松の父親藤五郎が藩から「出府」したからです。
しかし原文には、藤五郎が出府という方法を選んだ理由が書かれていません。
ではなぜ藤五郎は、捕まれば一家全員が磔になると分かっていて、出府したのでしょうか?
もしこれが現在の話なら、藤五郎の行動は一種の無理心中に近く、妻や子供達の人権を考えると、大変無茶な行動になって来ます。
特に子供達は、事情を知らされないまま磔に処せられるのですから、たまったもんではありません。
そんな無謀な行動を、藤五郎はなぜ敢えてとったのでしょうか?
この章ではなぜ出府という方法を取るに至ったかについて、管理人の考えをお伝えしたいと思います。
その前に『出府』という聞きなれない言葉の意味を確認しておきます。
出府(しゅっぷ)
広辞苑第6版によると、
「@江戸時代、武家が幕府のある江戸に出ること。
A地方から都会に出ること。」
だそうです。
『ベロ出しチョンマ』の文脈でいうと、
「江戸に出る」
という意味でいいと思います。
また話を進めやすいように、出府した時の原文を引用させて頂きます。
4
ある朝起きてみたら父ちゃんがいなかった。母ちゃんに聞いたら
「知ンねえ。父ちゃんのいねえこと、誰にも言うんじゃねえド。分かったっぺ!」
と恐い顔をして言った。父ちゃんは帰って来なかった。夜中にヒソヒソやって来たおじさんたちも誰も来なくなった。 |
これだけです。
この後すぐに妻と長松兄妹がつかまる場面になります。
つまり出府の理由は書かれていないのです。
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<目次>
1.長松の父親はどういう人物か?
2.花和村の状態
3.村人の状況・気持
4.直訴を選んだ理由
5.長松の父親(藤五郎)が出府を決断した理由
6.作者はなぜ藤五郎の出府理由を書かなかったのか
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主人公長松の父親木本藤五郎は、村人からも家族からも尊敬される人格者の名主。藤五郎が人格者ということが、作品『ベロ出しチョンマ』を下支えしている。
天災が頻発し、藩は花和村にネングの増納を命令した。増納すると暮らして行けなくなりそうなので、村人達は夜な夜な藤五郎の家を訪れ、逃散、打ち壊し、強訴、直訴などの抗議行動を起こすしかないと話し合った。
話し合いの結果、最も効果的でかつ村人の損害が少なくなるのは、名主の藤五郎が村人に相談なく直訴に行くことだということになった。妻のふじも納得し、藤五郎は子供達に理由を告げることなく、ある朝出かけた。
作者は敢えて出府の理由は書かず、
「村のために直訴に出た」
と読者に想像させるようにした。
一方で村人の保身と思える言葉を残すことにより、ただ単に村のためだけに出府したのではないことも印象づけた。
また出府の理由を書かないことにより、伝えたい主題を一層際立たせた。
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