★このページの初出 2020年2月22日
★このページの最終更新日 2020年2月22日
4.将軍に会えたのかどうかを書かなかったのはなぜか?
長松の父親藤五郎は、江戸に出府して将軍に会えたのか?
また直訴は成功したのか?
この2点は一見、『ベロ出しチョンマ』という作品の根幹を成す最重要事項に思えます。
なにせ藤五郎は捕まれば磔になると分かっていて江戸に向かい、結果捕まって長松一家は処刑されたのです。
当然出府の結果がどうだったのかは、読者としても非常に気になります。
また結果次第では、物語の印象が大きく変わってしまう重大事項です。
しかし「3.父親藤五郎は将軍に会えたのか?」でも書きましたが、作者は出府の結果を書いていません。
この物語の展開上極めて重要な事項だと思われる出府の結果を、なぜ作者は敢えて書かなかったのでしょうか?
この章では、そこに焦点を当てて管理人の考えをお伝えしたいと思います。
その前に話しを進めやすくするために、出府後長松達が捕まる時の原文を引用させて頂きます。
そして何日もたったある晩、表の戸がはげしくドンドン叩かれた。
(中略)
戸は蹴倒されて、役人がナダレこんで来た。
「名主、木本藤五郎妻ふじ、そのほう、夫藤五郎が、おそれおおくも江戸将軍家へじきそに及ぶため、出府せしこと存じおうろう!」
肥った役人が憎々しげにそう言って、六尺棒で母ちゃんの肩をグイと突いた。ウメがワッと泣き出し、長松は役人をにらんでやった。父ちゃんは江戸に行ったんだナ! 将軍様にあったんだ!
「知ってました。覚悟はしてますだ。ご存分に」
母ちゃんの腕に力が入って、体のふるえが長松の体にも伝わって来たが、長松は母ちゃんの声がふるえていないのが気にいった。 |
この後、舞台はもう刑場に入って行きます。
出府の結果は書かれていません。
長松は
『父ちゃんは江戸に行ったんだナ! 将軍様にあったんだ!』
と思っていますが、これは希望的観測に過ぎないのです。
なお以下の考察は、あくまで作品『ベロ出しチョンマ』に描かれている内容から想起したことであり、作者が参考にしたと思われる現実に起こった事件での直訴の成否とは切り離して考えていますので、ご留意お願い致します。
1.なぜ出府が「失敗した」と書かなかったか?
2.なぜ直訴が「成功した」と書かなかったか?
3.なぜ『父ちゃんは江戸に行ったんだナ! 将軍様にあったんだ!』を書いたのか?
作者は物語展開上の重要事項である「出府の成否」を明文化しなかった。
「出府が失敗した」と書かなかったのは、物語の印象が暗くなるのを避け、文章を短くし、主題を変質させないため。
「直訴が成功した」と書かなかったのは、物語のリアル感を損なわせず、文章を短くし、主題を変質させないで、ルールを破っても良いと思われないため。
長松の
『父ちゃんは江戸に行ったんだナ! 将軍様にあったんだ!』
という希望的観測を書いたのは、読者に希望を与えた上で心の負担を軽くすることと、長松と藤五郎の固い信頼関係を伝えるため。
セリフにしないで長松の思いにしたのは、読者を同調させやすくするためと、出府の成否を明文化させないため。
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