★このページの初出 2020年2月22日
★このページの最終更新日 2020年3月30日
7.作者が伝えたかった主題
3.作者の伝えたかった主題
1.第1章と最終文章は対になっている
作者斎藤隆介は、長松のベロ出しにのみスポットを浴びせることで、読者に人の素晴らしさを伝えました。
もう1つ作者は物語の構造でも、人の素晴らしさとその普遍性を読者に伝えていると管理人は考えています。
ご説明させて頂くために、『ベロ出しチョンマ』第1章と、最終文章を原文から引用してみます。
1
千葉の花和村に「ベロ出しチョンマ」というオモチャがある。チョンマは長松がなまったもの。このトンマな人形の名前である。
人形は両手をひろげて十の字の形に立っている。そして背中の輪をひくと眉毛が「ハ」の字に下がってベロッと舌を出す。見れば誰でも思わず吹き出さずにはいられない。※以上第1章(管理人注)
(中略)※以下が最終文章(管理人注)
千葉の花和村の木本神社の縁日では、今でも「ベロ出しチョンマ」を売っている。 |
このように第1章と最終文章は、よく似た文章で、対になっているのです。
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2.第1章と最終文章は現在形
第1章と最終文章で特徴的なのは、文章が
「〜ある。〜いられない。〜いる。」
という現在形で終わっていることです。
実は第2章から、最終文章の直前の文章までは、
「〜った。」
という過去完了の助動詞がある文章があり、その章が過去のことを言っていると分かるのです。
しかしこの第1章と最終文章だけは、現在形で終わる現在のことを言っている文章なのです。
ではなぜ第1章と最終文章だけは、現在のことを表しているのでしょうか?
まず第1章では、「ベロ出しチョンマ」という人形が現在もあるということを示すことで、物語の冒頭で現在につながる話だと読者に伝えています。
最終文章では、長松一家の苗字を冠した木元神社が現在もあり、
『今でも「ベロ出しチョンマ」を売っている。』
と、わざわざ「今でも」と一文入れ、現在まで連綿と村人(=読者)が優しい気持で長松一家を悼み続けて来ていることを読者に伝えています。
つまり、作者が第1章と最終文章を現在形にしたのには、
「この物語は遠い過去の自分には関係の無い話ではなく、現在を生きる読者にも関わる話だ」
という普遍性があることを読者に伝えたかったのだと、管理人は考えています。
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3.人は昔も今も素晴らしい
作者は物語の導入部分の第1章で、今から始まる物語は現在の話だと読者に伝えました。
第2章以下は過去の話ですが、長松のベロ出しによって
「人は生来優しさを持つ素晴らしい存在だ」
という主題を読者に伝えました。
そして最終文章で、長松一家を悼む優しさは過去から現在にも続いていると、再び強調しているのです。
この
「現在→過去→現在」
という物語構造により、作者は主題の
「人は素晴らしい存在」
が、過去から現在にずっとつながっていると読者に伝えているのだと、管理人は考えています。
第1章で、「ベロ出しチョンマ」というおもちゃで笑うという事実によって、この人形が現在も受け入れられていることが読者に伝わります。
第2章以下では、おもちゃの「ベロ出しチョンマ」がどうして生まれたかが語られ、主題の
「人は素晴らしい存在」
ということが読者に伝えられます。
そして、最終文章でその「ベロ出しチョンマ」が
「今でも」
僕達読者に受け入れられているとことを再び伝えることで、主題の「人は素晴らしい存在」が、「今でも」読者にもあてはまると伝えているのです。
言葉を変えていうと、昔から人は素晴らしい存在であり、それは現在でも変わらない。人の素晴らしさは、変わらない普遍性を持っているということを伝えているのです。
もちろん人には正邪善悪があり、第2章以下で書かれた、人が人を苦しめる状況も現在に至っても変わっていません。
しかし、作者は人の悪い面も継続されていることは。現在形で書かれている第1章と最終文章にも、人のネガティブな部分は無いのです。
読者である村人が、社を守って「ベロ出しチョンマ」を伝えたというポジティブなことしか書いてないのです。
意図的に人の良い面のみを書くことで、今も昔も人は素晴らしい存在だと読者に明るい印象のみを伝えているのです。
このように作品『ベロ出しチョンマ』は、「人は素晴らしい存在」という主題が普遍性があることを伝えるために、物語の構造に至るまで工夫されている作品なのです。
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【この章の要約】
第1章と最終文章は対になっている。
どちらの文章も現在形で、「人は素晴らしい存在」という主題が、昔も今も変わらない普遍性を持っていることを読者に伝えている。
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