★このページの初出 2020年2月22日
★このページの最終更新日 2020年2月22日
6.長松はなぜ父親を責めなかったのか?
『ベロ出しチョンマ』では、主人公長松と妹ウメは父親藤五郎からも母親ふじからも何も聞かされずに磔に処されることになりました。
藤五郎が捕まれば一家が磔になると分かっていたにもかかわらず、敢えて出府したからです。
この藤五郎の行為は、現在でいうと一種の無理心中に近く、もし現在同じ行為を行えば
「子供の重大な人権侵害」
などということで、かなり深刻な問題となる可能性が高いです。
もし私達が長松やウメと同じ立場なら、
「ぼく達の命をなんだと思ってんの!?」
と父親を激しく責めるのではないでしょうか。
なんの落ち度も無いのに処刑されるのですから、当然と言えば当然です。
ところが長松は父親を責めていません。
むしろ誇らしげでさえあります。
よく考えるとこれは相当驚くべきことです。
父親のせいで1つしかない自分とウメの命が無くなるのに、父親を責めるどころか、誇らしげに思うというのは、現在に生きる私達にはなかなか理解できない心情です。
そこでここでは、どうして長松がそういう心情を持つに至ったか、そこまで至る父親との関係はどうだったのかについて管理人の考えをお伝えしてみたいと思います。
1.長松と父親藤五郎との関係を示す原文
2.作者が長松と父親の関係を明記しなかった理由
3.書かれていないからこそ伝わる関係
主人公長松と父親藤五郎の関係は書かれていない。
理由は、文章が長くなったり因果律ができるのを避け、主題を際立たせたかったためと考えられる。
しかし一番の理由は、書かない方が二人の関係が伝わると考えたから。
二人の関係が明記されていないので、読者は長松と藤五郎が
「言葉にしなくても大丈夫なぐらいの信頼関係で結ばれている」
と想像することができる。
そのように想像できるよう、作者は長松を良い子、藤五郎を人格者として描き、伏線を張っている。
さらに
『父ちゃんは江戸に行ったんだナ! 将軍さまにあったんだ!』
と長松に思わせることにより、読者に希望と安堵感を与え、物語の暗さを軽減し、出府が成功したように思わせた上で、長松と藤五郎が信頼関係で結ばれていたことを読者に伝えている。
また処刑の場面で藤五郎に優しく笑わせることにより、言葉にならない藤五郎の思いが、読者に深く伝わるよう工夫されている。
長松が父親を責めなかったのは、作者が言葉を書かないことで二人の思いを深く伝えようとした結果だ。
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