★このページの初出 2020年2月22日
★このページの最終更新日 2020年4月4日
11.『ベロ出しチョンマ』が作品集のタイトルになったのはなぜか?
なぜタイトルが『ベロ出しチョンマ』になったかを考えるために、まず作品集『ベロ出しチョンマ』の各パートの特徴を挙げてみたいと思います。
1.はじめに
以下が全文です。ごくごく短い文章です。
『はじめに
おとなになればなるほど
童話がなつかしくなる心
--そんな心の
父母たちに
若者たちに
この本をささげます。
そして、小さな人たちには、
あなたから
話してあげてください。』
このように、今から作品集を読む人達への作者の希望が書いてあります。
今のことなので、当然書いているのは現在です。
重要なのは、この作品集を
「小さな人たちには、あなたから話してあげてください。」
と書いてあることです。
小さい人=子供に向けて書いたのではなく、父母や若者向けに書いた作品集だということをここで言っているのです。
つまり単純な子供向けの童話集ではないことが、ここで宣言されているわけです。
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2.プロローグ 花咲き山
フォア文庫で4ページ分。
山ンばの方言的な独白と『あや』の心象。
方言的な語りのせいで昔話のように思えますが、江戸時代にいたと思われる『三コ』がかつて山を作ったと書かれていたり、弁当の話や祭りの服の話が書いてあるので、昭和初期ぐらいの田舎の話とも思えます。
いつの時代の話かは書いてありませんが、そう遠くない昔の雰囲気がします。
『はじめに』が現在のことなので、このプロローグは、そう遠くない昔に方言的な言葉で語るということで、読者を現在からこれから始まる昔話にスムーズに入れるよう誘導していると管理人は考えています。
内容は、ふもとの村で、
『つらいのをしんぼうして、やりたいことをやらないで、涙をいっぱいためてしんぼうすると、そのやさしさと、けなげさが、こうして花になって、咲き出す』
ということと、『八郎』と『三コ』が命をかけて山を作ったということ。
そしてそれらのことを、山ンばから聞いた『あや』が、時々自分が優しいことをしたときに
『おらの花が咲いてるな』
と思うということです。
主題は、本文にある
『やさしいことをすれば花が咲く。命をかけてすれば山がうまれる。』
という言葉に集約されていると思います。
人の優しさは花となって山一面を覆うこともできるし、命をかければその山さえ作ることができるという、作者のエールともいえる内容です。
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3.大きな大きな話
『ベロ出しチョンマ』を含む6話。フォア文庫版で60ページ分。平均1作10ページぐらいです。
各話に共通するのは、
「大勢の人または村全体を救った、または救おうとしている登場人物がいる」
「命もいとわないぐらいに必死で行動する登場人物がいる」
「心根の優しい登場人物がいる」
ということでしょうか。
村を救ったりしますので、スケールが大きいといえば大きい話が多いです。
またストーリーが二元的に進んだりして、やや物語の構成自体も複雑です。
平均で10ページぐらいありますので、作品集の中では長い作品が揃っています。
内容を強引にまとめれば
「私欲ではない優しさで、誰かが誰かを、救う・救おうとしている話」
がこの「大きな大きな話」と言えるかもしれません。
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4.小さな小さな話
11作フォア文庫79ページ分。平均1作7ページ強。
教訓めいた話から、落ちのある小話的な話まで、バラエティ豊かな作品群です。
各話に共通するのは、
「人が登場する」
「教訓的なものがある作品は、教訓が1つ」
「全体的に短い作品が多い」
ぐらいでしょうか。
『モチモチの木』『ソメコとオニ』などはとても面白い作品ですが、そんなに深く考え込むような作品でもないと管理人には思えます。
『なんむ一病息災』や『もんがく』などは教訓めいたものがありそうです。
ただ全作品に人が登場し様々な面を見せるので、人を描こうとした作品郡であるとはいえると思います。
内容を強引にまとめれば
「人には様々な側面があり、元気さも面白さも臆病さも、強さも弱さも、臨機応変さも、優しさも持っている」
ということを伝えている作品群と言えるかと思います。
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5.空に書いた童話
9作品。フォア文庫70ページ分。平均1作品7ページ弱。
『小さな小さな話』以上にバラエティに富んだ話が多いです。
ただ『白い花』は抗戦(反戦ではない)童話のような雰囲気で、物語の展開も変で、正直言って直接子供に読ませるのはどうかなあという印象を管理人は持っています。
また最後の『寒い母』も、夜に寡婦が爺のところに通うという内容もあるので、直接子供に読ませるのは微妙だと、管理人には思えます
この2作品は、父母や若者が自分の言葉に直して子供達に話した方が良いのかもしれません。
各話の共通点は、
「『カッパの笛』を除いて、空に関する描写がある」
「短い作品が多い」
ぐらいでしょうか。
教訓があるものもあれば、無いようなものもあります。
人以外の主人公も登場し、一律ではない様々な話が展開されます。
『春の雲』のように理不尽とも言える話があります。
『天の笛』のように、献身が主題の話もあります。
『白い花』や『寒い母』のように、子供には伝えにくい話もあります。
まさに作者が自由に想像し、空に書いたような作品達です。
内容を強引にまとめると
「一律ではなく様々なのがこの世界だ」
というのを伝える作品達とも言えると思います。
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6.エピローグ トキ
フォア文庫で10ページ分。作者の分身と思われる人物の独白形式。
大東亜戦争後の話も出ているので、ほぼ現在に近い時期の話だと思われます。
『大きな大きな話』以降続いて来た昔話から、現在の話と昔話を混合して語ることで、読者をスムーズに現在に連れ戻す役目も担っていると、管理人は考えています。
内容は、『私の胸の原形のトキ』の『澄枝さん』への片思い話と、自分の頭の中の『夢の鳥』で、容姿がイマイチで結婚しなかった昔いたトキという女の話が二元進行するという、凝った作りとなっています。
ストーリーを簡単に書いてみます。
「昔いたトキという女は容姿がイマイチだったが、幼い頃から婆さまに
『いまはおまえは灰色の、汚ねえ汚ねえ子だども、きっと桃色のトキになる--』
と励まされて生きていた。
しかしそうはならなかった。
ただ『無口で心ばえが優しく』働き者だった。
著者の分身と思われる『私』は、幼い頃近所の澄枝という女の子に
『足のひらが焦げるような』
激しい恋をした。
しかし澄枝は嫁に行き、大東亜戦争中空襲警報が鳴る国電の中で妹に、
『姉さん、とっくに肉屋のおかみさんになって、会津若松に行って、子どもが七人あるわ!』
と告げられる。
しかし『私』も既に年上の女と同棲していた。
昔いたトキは七十になり、今でも働いている。働きながら他人のことを考えている。
トキの家には毎晩村の人が相談に来る。
その理由は、
『トキは若い時からいじめられ、恥かしめられ、苦労した。だからトキは無口だが親身になって聞いてくれる。』
からだ。しかも、トキの家はきちんと片付いており、村人達の家より気持がいいのだ。
『トキはみんなにやさしくて、みんなもトキをなつかしがって、それから何十年も何百年も生きた。ひょっとすると今でもどこかで生きているかも知れない。』
「澄枝さんにもトキのようなお婆さんになってほしい。自分もそうなりたい。」
こんなストーリーです。
「夢の鳥」であるみんなに優しく慕われたトキと、自分が現実に恋をした澄枝という「原形のトキ」が一緒になってほしいという願いを書いた、子どもには分かりづらい構成の作品です。
また物語の始まりも不可思議です。
『あなたの頭の中に、トキが飛ぶまでに、どれだけの時間がかかるだろうか。
トキはまず、この、原稿用紙の上を飛ばなくてはならない。
それでないと、活字になって本の上を飛ばず、従ってあなたの頭か、胸の中を飛ばない。』
このように冒頭から『トキ』とはなんなのかを考えさせるようになっているのです。
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【この章の要約】
作品集『ベロ出しチョンマ』の構成。
「はじめに」は、ごく短い文章で、この作品集を父母や若者向けに書いているという宣言。
「プロローグ 花咲き山」は、しんぼうしてやさしくすれば花が咲く、命をかければ山だって生まれるという内容。
「大きな大きな話」は、私欲ではない優しさで、誰かが誰かを救う・救おうとしている話。
「小さな小さな話」は、人には様々な側面があり、正邪善悪を持っているという話。
「空に書いた童話」は、一律ではなく様々なのがこの世界だという話。
「エピローグ トキ」は、みんなにやさしいトキのように自分もなりたいし、好きだった澄江さんにもなってほしいという話。
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