★このページの初出 2020年2月22日
★このページの最終更新日 2020年4月4日
14.終わりに
最後は、この深読みを読んでくださった皆様への、管理人からぜひお伝えさせて頂きたいことです。
1.『はじめに』全文
まず作品集『ベロ出しチョンマ』冒頭の『はじめに』を引用させて頂きます。
『はじめに』は、作者斎藤隆介が、これから読む読者に直接語り掛ける大切なメッセージです。
『おとなになればなるほど
童話がなつかしくなる心
--そんな心の
父母たちに
若ものたちに
この本をささげます。
そして、小さな人たちには
あなたから
話してあげてください。』
これが全文です。
管理人は長い間、作者がなぜわざわざ
『あなたから話してあげてください』
と書いたのかが分かりませんでした。
「『話して』などと書かないで、直接子供達に読んでもらえばいいのに」
という思いがずっと頭の中にありました。
作品集に収められた作品は、教育新聞に書かれたものなので、学校教育者に向けて書かれた言葉なのかとも思ったりもしました。
しかし、この深読みを書き終えた今、ようやく作者の気持が分かる気がしますので、以下で書いてみます。
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2.『大人になればなるほど 童話がなつかしくなる心』とは?
まず
『大人になればなるほど 童話がなつかしくなる心』
というのはどんな心でしょうか?
『大人になる』というのは、年齢的に成人するという意味ではないと思います。
大人になるというのは、社会に出るという意味ではないかと、管理人は考えています。
学生時代までの言動は最終的には親が庇護してくれます。
しかし社会に出ると、基本的には自分の言動に責任が伴います。
そのため、自分の思うがままの気軽な言動ができなくなります。
また、仕事を始めると、顧客や同僚や上司などと、人間関係や仕事の手順などで様々な軋轢を生むことがあります。
さらに結婚したり、子供ができたり、家を建てたり、地位やお金を得たりすると、守るものも増えて行きます。
そんな中、うまく生きて行くために、誰かを責めたり、蹴落としたり、理不尽なことに怒ったり、保身のために涙を呑んで耐え忍んだりすることも出て来ます。
幼い頃に持っていた、優しさや夢、正しい言動、いたわりの気持や、誰かのために泣くことなど、本来持っている自分の温かい心を押し殺して生きて行かざるをえないことが多くなるのです。
そんな風に、自分を偽って生きて行くのは、辛くしんどいです。
精一杯生きているのに、心身共にへとへとになります。
本当に疲れてしんどい時などは、自分を顧みて思うことがあるかもしれません。
「なぜ自分は、今の状況に文句を言ったり誰かを責めてるんだろう?
なぜ誰かを追い越して上に行こうとしているんだろう?
なぜあんな奴の無理強いに我慢しているんだろう?
自分は幼い頃、もっと人に優しくしようと思っていたなあ。
みんなが笑顔になれるような人になりたかったなあ。
正しい事をして、正しい事を言える人になりたかったなあ。
困っている人を助けて、一緒に泣けるような人になりたかったなあ。
どうして自分は、自分を押し殺したギスギスした人になってしまったんだろう?
幼い頃の、無邪気だけど、優しく希望に満ちていた自分はどうしてしまったんだろう? もう戻れないんだろうか?」
毎日が辛くてしんどくて人にきついことをしてしまうと、こんな自分の温かい気持を思い出すことがあるかもしれないのです。
僕自身も、疲れて人にきつく当たったりした時に、
「あれ、これは僕が目指した自分ではないのでは?」
と思うことがあります。
『大人になればなるほど 童話がなつかしくなる心』
というのは、こんな気持のことを言っているのではないでしょうか。
『大人になればなるほど』というのは、厳しい世間を生き抜くために、社会人として自分の生来の優しい希望に満ちた気持をどんどん削って行くこと。
『童話がなつかしくなる心』というのは、削られても削られても心の奥底に眠っている人らしい本来の自分への希求ではないかと思うのです。
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3.『童話がなつかしくなる心を持つ父母/若ものたち』
作者は『はじめに』で、そのような本来の人らしい気持ともいえる心を持ち続けている
『父母たち/若ものたち』
に『ベロ出しチョンマ』を読んでもらいたいと書いているのです。
逆に言うと、子供の頃の夢や優しさや希望や正しい言動などを求めない人には、読んでもらわなくて良いのです。
そういう人達は、良い意味でも悪い意味でも、人間が出来上がってしまっており、読んでも無駄だからです。
そういった人は、もう変わらないのです。
作者はもう変わらない人達ではなく、本来の自分のあり方を探している人に『ベロ出しチョンマ』を捧げ、読んでもらいたいと書いているのです。
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4.話してあげてほしい
作者は、本来の人らしい気持ちを求めている父母や若ものたちに
『小さな人たちには、/あなたから/話してあげてください』
と書いています。
『小さな人たち』は、主には子供達だろうと思います。
まだ大人になっていない若者達も含むのかもしれません。
もっといえば、なかなか人の言うことを聞かない、心の小さな大人のことかもしれません。
そんな人達に
『あなたから/話してあげてください』
というのが、作者の希望です。
「話す」と「読む」では難易度が全く違います。
「読む」のは自分が理解すれば終わりですが、誰かに話すには、作品をしっかり読んで、自分なりに理解しないといけません。
さらに自分の言葉を使って、分かるように相手に伝えないといけません。
人に話して伝えるということは、ただ相手に「読め」と言うよりずっと考える力と表現力を使うのです。
言葉を変えて言うと、作者が『話してあげてください』と書いた裏には、読者に自分で考えてほしい。
そして自分の言葉で伝えてほしいという希望があると、管理人は考えています。
作者には、作品集全体で伝えたかったことも、作品それぞれで伝えたかったことがありました。
もし読者に伝えたかったことがそのまま伝わり、その読者が『小さな人たち』に伝えてくれたら、作者としては嬉しいでしょう。
しかし、作者斎藤隆介は、もっと大切なのは、
「読者が自分で考え、自分の言葉で伝える」
という行為そのものだと考えたのだと思うのです。
作品『ベロ出しチョンマ』では、当初村人は人に頼り、結果として名主である藤五郎を出府させました。
しかしそのことが、藤五郎一家処刑という悲惨な結果を招きました。
そこで村人達は、ネング増納などの対処法を今度は自分達で考え、花和村を現在まで存続させたのでした。
『三コ』や『八郎』の大男も、『モチモチの木』の豆太も、『浪兵衛』の平戸屋浪兵衛も、『天の笛』のひばりも、みんな自分で考えて自分の行動を決めているのです。
こうしてみると、「自分で考える」ということは、実は作品集『ベロ出しチョンマ』のテーマでもあるのです。
だからこそ、作者は『はじめに』で、『あなたから/話してあげてください』と書いたのです。
読者に自分で考えてほしいのです。
考えるのは、状況にただ流されたり、文句を言ったり、嘆いたりするよりしんどいです。
しかし本気で考えれば、状況を変えることができるのです。
『プロローグ 花咲き山』のように、我慢や辛抱をして考えに考えれば『山がうまれる』ことだってあるのです。
そして、作者が読者に「考えてほしい」と伝えた裏には、作者の読者に対する
「人であなたには考える力がある」
という信頼と期待があるのです。
そんな信頼と期待があるからこそ、作者は読者に考えてほしいと作品集の冒頭で伝えているのです。
そしてその信頼と期待は、見事に読者に受け止められていると管理人は考えています。
もう出版から半世紀以上経つのに、未だに『ベロ出しチョンマ』が版を重ねているのは、読者が『小さな人たち』に
「『ベロ出しチョンマ』はこんな作品集だから、読んでみたら?」
と自分で考えて、自分の言葉で伝え続けているからだろうと思うのです。
管理人がこの深読みを書いたのも、管理人なりに『ベロ出しチョンマ』を読み、自分の言葉で素晴らしさを伝えようと思ったからなのです。
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5.『ベロ出しチョンマ』の素晴らしさを伝えてほしい
作品集『ベロ出しチョンマ』は、人は素晴らしい存在だという肯定感に基づく、
「優しくあってほしい。命をかけて山を作るような人間なってもらいたい」
という作者の人への期待とエールに満ちた本です。
そして作品『ベロ出しチョンマ』は、藤五郎の出府や長松の無私の優しさを通して、人の素晴らしさを伝えるという、作品集の主題を最も結集した渾身の作品です。
作者と編集者は、作品集『ベロ出しチョンマ』を、『はじめに』『プロローグ 花咲き山』『大きな大きな話』『小さな小さな話』『空に書いた童話』『エピローグ トキ』と6つに分け、本当に丁寧に編集しています。
また滝平次郎の画は、作者の意図をよく読み取った、もはや芸術品です。
そんな極めて完成度の高い作品集ですので、ぜひ読んでみてください。
そして、もし良いと思ったなら、自分で考えて自分の言葉で、他の人に良さを伝えてあげてください。
その際、この深読みが役立つようでしたら、
「こんな感想を持つ人もいるよ」
と一緒に伝えて頂けたら、とても嬉しいです。
長文を読んで頂き、ありがとうございました。
皆さんが良い本に出合えることをお祈り致しております。
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【この章の要約】
作品集『ベロ出しチョンマ』は冒頭に『はじめに』という、作者から読者へのメッセージがある。
『はじめに』では、人本来の気持ちを希求する父母や若者に、自分の言葉で作品集の内容を話してほしいと書いている。
人に話すには、ただ読むだけではなく、内容を把握し、人に分かりやすく伝えるという技術が必要になる。
そのためには、内容をどう伝えるかを考えないといけない。
つまり作者は、作品集を読むことで
「考えてほしい」
と伝えている。
その裏には、
「人には考える力がある」
という作者の期待と信頼がある。
作品集『ベロ出しチョンマ』が今も読み継がれているのは、そんな作者の期待に、読者が応え続けているからだ。
作品集『ベロ出しチョンマ』も、作品『ベロ出しチョンマ』も極めて完成度が高いので、ぜひ読んでほしい。
そして、良いと思ったら自分で考えて自分の言葉で、他の人にも良さを伝えて行ってほしい。
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