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作品名 黄色い髪 作者名 千刈あがた
きいろいかみ ひかりあがた


  ★このページの初出
  2020年7月26日

  ★このページの最終更新日
  2020年10月18日


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今でも「前へならえ!」は変わらない

出版社 朝日新聞社
初出・連載時期 1987年5月16日〜11月7日まで朝日新聞で連載
管理番号 b9-nov1

作品概要 作者紹介
管理色の強い霞市立第四中学校に通う2年F組の柏木夏美がいじめにあう。母親史子は娘と真剣に向き合う。二人が変わり始める。 1943年東京都生。1992年没。代表作に「ウホッホ探検隊」「ゆっくり東京女子マラソン」「しずかにわたすこがねのゆびわ」など。島唄の収集にも尽力。(千刈あがた資料館より)。

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この作品を殿堂に入れようと思った理由です。

怒涛の展開
いじめに遭う前から始まり、いじめに至る過程、いじめ後の夏美の対処方法、母親史子の意外な行動、二人それぞれに訪れる新たな出会いなど、ストーリーが激しく動いて行きます。
主に夏美の視点と史子の視点で物語が進みますが、二人が暗中模索するので、読者としては常に緊張感を強いられます。
濁流に押し流されるような怒涛の展開が大きな魅力です。

2 個性的でリアルな登場人物
主人公といえる夏美と史子はもちろんのこと、生徒を恫喝する鎌田先生、要領の悪い藤本里子と気弱な母親、会うたびに名前が変わり「別人ごっこ」をするユキコ、史子とひと時だけ一緒にいる髪の茶色い女子、「タテワリモクドウ」をやらされている中一の「ヤマザキスミコ」、元暴走族の太一・・・他にも個性的でかつリアルな人物が次々に登場し、それぞれが非常に魅力的です。











3 現実感のある描写
特に史子の他人の見方が非常にこまごまと描写され、良い感じ方も苛立ちなども
「自分もこう感じるだろうな」
と妙に納得できます。その結果、物語はいかにも実際にあるだろうという現実感に満ちています。











4 真剣さ
いじめに遭う夏美はもちろん、母親の史子も、他の登場人物達の多くも、自分のおかれた状況に対して真剣に対峙しています。
現在からみると
「そこまで考えなくても良いのでは」
と思えるぐらいです。しかし、その真摯さがあるからこそ、発表から数十年経った今でも、読者の胸を揺らすのです。











5 作者の熱量
物語の底にマグマのように見え隠れするのは、作者の
「この物語でいじめのことを伝えたい。いや、伝えなければならない」
という強い意志です。
その意志は物語全体に膨大なエネルギーを与え、熱い物語となっています。この作者の熱量こそ、この物語の最も大きな魅力だと僕は思っています。

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管理者に特にインパクトのあった話や描写や言葉をピックアップします。

「先生も、お母さんも、間違ってる……」
朝日文芸文庫P46 冒頭 
「人を犬畜生より下だと言ったり、犬畜生呼ばわりしたと怒ったりするのは、人間は犬畜生より上だと思ってるからよ」 学校に呼び出された後、夏美が史子に言う言葉。史子はこの言葉で夏美との距離を感じます。
夏美がわずかに「普通の子」と違う感覚を持っているのがよく分かる言葉。

テレビドラマなんてね、みんな男がつくったもの。
朝日文芸文庫P159 8行目
学校もそう。男がつくったものだから、女の子が苦しむのは当たり前なの 美容師の保子が夏美に言う言葉。
日本でも世界でも、現在もこの言葉は生き続けています。












命を一つ殺して送るつつがなき一生って何だ
朝日文芸文庫P258 10行目 
親爺は学校をちゃんと出て、つつがなく一生を送ることがだいじと考えた。 高校生で恋人を妊娠させ、父親から子供を始末すれば学校をやめずにすむと言われた、元暴走族で家具製作所で働く太一の言葉。

「星が見えるといいのに」
朝日文芸文庫P263 3行目
史子は顔を仰向けて空を見た。靄(もや)がかかているようで、空はどんよりしている。史子は女の子と並んで地面に横たわった。 以前「さびしいね」と史子に話しかけて来た茶色の髪の高校生が、仲間から抜けるための集団暴力を受けた後つぶやく言葉。
「黄色い髪」という物語を象徴する言葉の1つだと思います。
この女性は、子供を堕ろした時に、母親から「あなたはキズモノになった」と言われるなど、しんどい過去を持ちながらも、未来へのエネルギーを持つ、魅力的な存在。
彼女のそばに横たわることができるまでに、史子も変化して行きます。



















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管理人と作品との関わり、読む際に知っておくと一層楽しめる情報、管理人個人の期待や意見です。

いつだった忘れてしまうぐらい昔に、なぜ読んだのかも忘れてしまっていた作品。
ただ当時、面白くて何度か読んだのだけは覚えています。

今回このサイトを作成するために、四半世紀ぶりぐらいに読んでみました。

もう古びてしまったかなと思っていましたが、全くそんなことはなく、むしろ今だからこそ読んで欲しいと思い、取り上げさせて頂きました。


いじめを取り扱っているせいもあり、軽い作品ではありません。
あたかもボクシングで重いパンチが繰り出されるように、様々な社会問題も盛り込まれています。

そのパンチは読者をどんどん打ちのめし、読むのがしんどくなる程です。

しかしそれでも読むのをやめられません。

理由の1つは、夏美と史子がどんどん変わって行く上に、魅力的な登場人物達が次々に登場するストーリーが面白いからです。

もう1つ理由は、作者の物語にかけるエネルギーが激しいからです。
「どうしても書かざるをえない!」
という燃えるような情熱が読むのをやめさせないのです。

作者は、いじめという過酷な現実を夏美や史子につきつけて、
行動しろ! 考えろ! 生きろ!
と読書に訴えているようにさえ、管理人は思えるのです。


これだけの熱い作品を書いた千刈あがたですが、現在紙の本の新刊は手に入れることができません。「ウホッホ探検隊」が電子書籍になっている程度です。

なぜでしょうか?
同時代性が強く、その時代は読まれても、時代が変わったら読まれなくなる作品が多かったからでしょうか?

確かに本作でも「セーラー服を脱がさないで」「ウィー・アー・ザ・ワールド」「ビー・バップ・ハイスクール」「ニューリーダー」「尾崎豊」「DCブランド」・・・など、知らない若者には
「なんすか、それ? 昭和レトロってやつっすか」
などと言われそうな言葉が出て来ます(笑)

これらの言葉だけを見れば、確かに同時代性が強いといえますが、少なくともこの「黄色い髪」は、現在でも十分通用する内容だと思います。


なぜなら、本作が書かれた時代から、教育の現場はほとんど変わっていないからです。

相変わらずいじめは続いています。
教員による生徒に対する人権侵害も無くなりません。
理不尽ともいえる校則も無くなっていません。
子供の自殺も続いていますし、不登校も無くなってはいません。

そもそも元となる教育体系自体が、僕の幼い頃から変わっていません。
東大を頂点とする受験戦争はずっと続いていますし、相変わらず知識偏重です。

僕は義務教育を小学・中学と受けましたが、授業で社会に出て役立ったことはかなり少ないと言えます。
成功の仕方できると思うことの大切さなどの生きて行く上で非常に重要なことは教えてもらえませんでした。

一番学んだのは、
「そつなく集団生活を送るための空気の読み方
だったような気がします・・・


新聞などでは
「これから必要とされるのは、イノベーションを起こせる発想力の豊かな人物だ」
とよく書かれていますが、高校までの教育は相変わらず新しい発想を起こさせないようにする「軍隊式」です。

学校の集会などでは軍隊で上官がするように、教員が高い台に乗って命令し、
「前へならえ」「右向け右」「気をつけ」
などとやっています。

軍隊教育の最大の目的は、
命令の絶対遂行
だと僕は思っています。なぜなら、戦争において命令違反をして行動が乱れると、自分達軍隊だけでなく人民の命が危険にさらされるからです。命令に対して疑問を持つなどあってはならないのです。

その軍隊式の教育をやっている限り、イノベーションを起こすような人物は育ちにくいと思います。
何も考えずに、
「前へならえ」
をやる方が褒められるのですから。

「黄色い髪」では、霞四中の体育祭は「規律と統制」で「マスゲーム」を行うと書かれていますが、今でも危険で軍隊的な組体操というマスゲームをやっている学校は多いのではないでしょうか?


このように「黄色い髪」が書かれた1987年からもう30年以上たつのに、学校教育はほとんど変わっていないのです。

なので、幸か不幸か「黄色い髪」の内容は現在でも十分通用するのです。

むしろ、イノベーションを起こせるような人物が求められる現在だからこそ、読まれるべきだと思うのです。

「黄色い髪」を読むと、
「普通の人と違うことを考えたり行ったりする」
が学校においてどれだけ排除されることかが分かります。

そしてそれが、どれだけ「普通でない子」を傷つけるのかもよく分かります。

その子達や親の「痛み」をぜひ感じてほしいです。

そして、僕達自身の
「普通であることが望ましい」
という考えを再点検してほしいのです。

それが、作者千刈あがたのこの作品で訴えている、熱い願いだと思うのです。

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作品を今読むにあたっての注意点、版元の変遷、作家のその後など作品・作者について管理人が
必要だと思った情報を掲載しておきます。

2020年7月現在、絶版です。中古本で手に入れるしかない状況です。

千刈あがたは1992年49歳で亡くなっているので、没後もうすぐ30年経ちます。
そのせいか、他の作品も紙の新刊で手に入れることはできません。

ただこの「黄色い髪」は現在でも通用する内容ですので、版元が古い言葉には注釈をつけて再刊しないかと期待しています。

日本の教育体系が抜本的に変わらない限り、いじめは続いて行くと思いますので、発刊していれば大きないじめが起こるたびに脚光を浴びる本だと思うのです。

売れなくても発刊し続けることに価値のある本だと僕は思うのです。

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このページを作成する時に使用した作品の詳細を底本として記載しておきます。
また参考にした書籍・サイト・ブログなども掲載させて頂きます。
さらに関連して読んで頂きたい書籍・サイト・ブログなども掲載させて頂きます。

底   本 朝日文芸文庫1997年6月第5刷を元にこのサイトを作成
参   考 千刈あがた資料館
関   連 特になし

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『黄色い髪』を購入されたい方のための情報
※必ずこの表中段の「購入にあたっての注意点」をお読みください
『黄色い髪』の現在の販売状況
2020年7月現在、版元の朝日新聞社のサイトにも掲載されておらず、絶版状態です。
電子書籍化もされていないようです。
購入するには、下記amazonなどで中古本を買うのが最も早いと思われます。
購入にあたっての注意点
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最も安心! 絶版状態のため版元では販売していません。
版元(朝日新聞社)サイト
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