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深読み 『ベロ出しチョンマ』!


★このページの初出 2020年2月22日
★このページの最終更新日 2020年2月22日

7.作者が伝えたかった主題

1.長松のベロ出しの状況
<ポイント>
1.ベロ出し時の原文
2.ベロ出しの意味は明記されていない
3.処刑時の家族の様子が書かれなかったわけ
この章の要約


1.ベロ出し時の原文

ここで、改めてタイトルにもなった長松のベロ出しについて、どんな状況で行われたのかを確認してみたいと思います。

原文を引用してみます。処刑の場面です。


 まず高いウメの(むね)の所で(やり)穂先(ほさき)をぶッちがいに組み合わせた。穂先がギラギラッと光った。
「ヒーッ! おっかねえーッ!」
 ウメが虫をおこしたように叫んだ。
「ウメーッ、おっかなくねえぞォ、見ろォアンちゃんのつらァーッ!」
 そして
眉毛(まゆげ)をカタッと「ハ」の字に下げてベロッとベロを出した。
 
竹矢来(たけやらい)の外の村人は、()きながら(わら)った、笑いながら泣いた。長松はベロを出したまま槍で突かれて死んだ。


この後は、社が作られ長松が人形になったという後日談になります。

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2.ベロ出しの意味は明記されていない

この原文でまず分かるのは、作者は長松のベロ出しの意味を直接
明記していない、ということです。

ただ長松がウメの霜焼けを取る際に、ひょうきんな顔をして笑わせたという描写が物語の前半にあるので、読者はベロ出しが
ウメの苦痛を和らげるためだ」
と分かっているのです。

そのため、クライマックスといえる処刑の場面では、わざわざ文章を増やしてまで、ベロ出しの意味を文章化しなかったのだと分かるのです。

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2.処刑時の家族の様子が書かれなかったわけ

(1)長松以外の処刑の様子は書かれていない
(2)暗さを軽減し、物語の流れを良くするため
(3)物語の主題が「献身の素晴らしさ」と取られるのを避けるため
(4)長松のベロ出しを際立たせるため


(1)長松以外の処刑の様子は書かれていない

処刑時の原文のもう1つ大きな特徴は、長松以外の
藤五郎一家の処刑の様子が一切書かれていないことです。

順番に処刑されて行ったのか、全員同時に処刑されたのかは分かりませんが、
長松の処刑以外の様子は省かれています。

特にウメは、せっかく長松がひょうきんな顔をしたのに、
実際に笑いながら突き殺されたのかどうかが書かれていません

作者は、家族の処刑の様子も、ウメが笑いながら死んだ様子も書くことはできたはずです。

例えば
「ウメは長松の顔を見て笑った。笑ったまま槍に突かれ死んだ。父ちゃんと母ちゃんも笑いながら死んだ。」
などと書いた方が分かりやすく、
劇的効果も高まると思われます。

ところが作者は、ウメや両親の処刑の様子を一切カットしてしまいました。

何故でしょうか? 以下で理由を考えてみたいと思います。

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(2)暗さを軽減し、物語の流れを良くするため

理由の
1つ目は、処刑の場面が多いと読者の気持を暗くする上に、物語の流れが滞るという、物語進行上の理由があると思います。

この場面はクライマックスなので、なるべくシンプルに主題を伝え、
物語の終幕まで一気に持って行きたかったのではないかと考えられます。

また、処刑という
人間の負の行動もなるべく少なくしたかったのだと考えられます。

処刑のシーンが多いと
凄惨なイメージが強くなり、うんざりする読者も出て来るかもしれないからです。

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(3)物語の主題が「献身の素晴らしさ」と取られるのを避けるため

理由の
2つ目は、ウメや親が笑いながら処刑された様子を書いてしまうと、
「長松の
無私の行為(献身)で、処刑の痛みが緩和された」
ということが
主題として取られる可能性が高くなってしまうからだと考えられます。

もしウメの処刑を様子を書くと、
「長松の行動によりウメが笑いながら死んだ」
という
因果律が、読者に強く印象付けられてしまうのです。

ウメが笑いながら死ぬ情景を書いてしまうことで、
「無私の行為(献身)は素晴らしいことで、見ている人に語り継がれることもある」
というように、
献身の大切さ
が主題と取られる可能性が高くなるのです。

しかし作者の伝えたかった主題はあくまで
にあるので、敢えてウメや両親の処刑の様子は書かなかったと想像できるのです。

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(4)長松のベロ出しを際立たせるため

処刑の場面をカットした、
3つ目で最大の理由は、作者がこの場面では長松の行動のみにスポットを当てたかったからだと管理人は考えています。

今までこの深読みで散々
「作者は主題を際立たせるために文章を削った」
と書いて来ましたが、この
長松のベロ出しという行動にこそ主題が隠されていると管理人は考えています。

そのため、ウメや両親の処刑の様子は一切描かず、長松のベロ出しに
のみ焦点が当たるように書いたのだと、管理人は判断しています。

タイトルにもするぐらいなので、作者はこの長松のベロ出しで読者に主題がしっかり伝わるよう、
他の描写を全部カットしてスポットを当てたのです。

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【この章の要約】
処刑時の原文には、長松のベロ出しの意味は明記されていない。理由は、物語の前半でウメの苦痛を和らげるためということが読者に分かっているため。

処刑時の原文には、長松以外の家族の処刑の様子も書かれていない。

理由。

1.物語の暗さを軽減し、流れをよくするため。

2.物語の主題が「献身の素晴らしさ」と取られないため。

3.長松のベロ出しにのみスポットを当てたかったため。

3番目の理由が一番大きかったと考えられる。


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