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深読み 『ベロ出しチョンマ』!


★このページの初出 2020年2月22日
★このページの最終更新日 2020年2月22日

11.『ベロ出しチョンマ』が作品集のタイトルになったのはなぜか?

4.『ベロ出しチョンマ』が作品集のタイトルになった理由
<ポイント>
1.作品集の意図を最も具現化した作品だから
2.作品としての出来が最も素晴らしいから
3.情景が最も印象に残るから
この章の要約


1.作品集の意図を最も具現化した作品

a.作品『ベロ出しチョンマ』の構成
b.作品の主題
c.世の中は一律ではなく、理不尽でもその現実の中で生きるしかない
d.優しさはずっと人の心に生き続けることもある
e.責めたり恨んだりしても仕方がない
f.我慢や辛抱をすれば山だって作れる
g.作品『ベロ出しチョンマ』と作品集『ベロ出しチョンマ』の構成は類似している
h.主題が分かりにくく多様な読み方ができる
i.作品『ベロ出しチョンマ』は、作品集『ベロ出しチョンマ』の主旨を最も具現化した作品


a.作品『ベロ出しチョンマ』の構成

作者の伝えたかった主題で解説させて頂いた通り、作品『ベロ出しチョンマ』の主題は、
「人は、生来の優しさを持つ
素晴らしい存在だ」
ということだと管理人は考えています。

また副主題で解説させて頂いた通り、
「人は自分自身を変える力を持っている」
という副主題もあります。

さらに作品『ベロ出しチョンマ』には、作者が伝えたかった教訓や希望でも解説させて頂いた通り、主題とは別に
1.人に頼るには責任がともなう
2.人に頼ってはダメ
3.どんなときも優しくしてほしい
という
教訓や希望も書かれています。

そんな作品『ベロ出しチョンマ』の
構成を詳しく見て行くと、以下のようになります。

1.
同じ人なのに為政者と支配される者に分かれている。
2.村人(むらびと)
保身が、名主の藤五郎を直訴に行かせる原因になっている。
3.藤五郎は直訴に失敗し、処刑される。
4.長松、ウメは何も知らないのに
理不尽に処刑される。
5.藤五郎は村人を責めない。長松も父親を責めない。
6.長松は死の間際にさえ生来の優しさを発揮し、ウメを笑わせる。
7.村人は、藤五郎一家の処刑の姿を見て
悔恨し反省し、笑いながらも泣く。
8.村人が藤五郎一家を悼んで建てた社は壊され続けたので、処刑後も
藩の為政は変わらなかったと考えられる。
9.処刑後、村人は
自分達が変わり、我慢や辛抱をして村を現在まで存続させいる。
10.村人は、藤五郎一家のことを忘れないために社を建て、
現在まで維持している。
11.村人は、長松の優しさに打たれ、人形として現在まで
語り継いでいる

これらの作品『ベロ出しチョンマ』の主題・教訓・希望・構成を、前章で見た作者が作品集『ベロ出しチョンマ』で伝えたかったことを
照らし合わせてみます

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b.作品の主題

人は素晴らしい存在だ」という主題は、
は、
作品集としてもその思想がベースとなっています。

人が素晴らしい存在だからこそ、作者は
人に期待しエールを送るために作品集を出したのです。

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c.世の中は一律ではなく、理不尽でもその現実の中で生きるしかない

上記構成の
1「同じ人間なのに為政者と支配される側に分かれている」
2「村人の保身が、名主の藤五郎を直訴に行かせる原因になっている」
3「藤五郎は直訴に失敗し、処刑される」
4「長松、ウメは何も知らないのに理不尽に処刑される」
は、作品集で伝えたかった
「世の中は一律ではない。しかも理不尽な
現実の中で生きて行くしかない
ということと合致しています。

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d.優しさはずっと人の心に生き続けることもある

構成の
6「長松は死の間際にさえ生来の優しさを発揮し、ウメを笑わせる」
11の「村人は、長松の優しさに打たれ、人形として現在まで語り継いでいる」
は、作品集で伝えたかった
優しさはずっと人の心に生き続けることもある
と合致しています。

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e.責めたり恨んだりしても仕方がない

構成の
5「藤五郎は村人を責めない。長松も父親を責めない」
は、作品集で伝えたかった
責めたり恨んだりしても仕方がない
と合致しています。

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f.我慢や辛抱をすれば山だって作れる

構成の
9「処刑後、村人は自分達が変わり、我慢や辛抱をして村を現在まで存続させいる」
は、作品集で伝えたかった
自分が変わらなければならないということと、
我慢や辛抱をすれば山だって作れる
と合致しています。

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g.作品『ベロ出しチョンマ』と作品集『ベロ出しチョンマ』の構成は類似している

作品『ベロ出しチョンマ』は、第1章と最終文章を現在形で書くことにより、
昔から人間は素晴らしい存在だったし現在もそうだ、ということを表現しています。

作品集『ベロ出しチョンマ』でも、
『はじめに』は現在、
プロローグはそんなに遠くない昔、
エピローグは現在
となっていますので、現在→過去→現在という
作品の構造と作品集の構造が近似しているのです。

また、作品『ベロ出しチョンマ』は第一章と最終文章が
になっています。

作品集『ベロ出しチョンマ』も、プロローグとエピローグが対になっています。

この
最初と最後が対になっている」
という構造も、作品『ベロ出しチョンマ』と作品集『ベロ出しチョンマ』は近似しているのです。

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h.主題が分かりにくく多様な読み方ができる

さらに「
ベロ出しチョンマの急所」で書かせて頂いた通り、作品『ベロ出しチョンマ』は主題が分かりにくく、多様な読み方ができてしまいます。

しかしその多様さも、作品集の
多様で一律でない現実で生きて行くしかない
ということを表現しているのではないかと、管理人は考えています。

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i.作品『ベロ出しチョンマ』は、作品集『ベロ出しチョンマ』の主旨を最も具現化した作品

a〜hで見て来た通り、作品『ベロ出しチョンマ』と作品集『ベロ出しチョンマ』には、少なくともこれだけの合致点・類似点があるのです。

作者が作品『ベロ出しチョンマ』に合わせて作品集を編集したのか、先に作品集の構想があって、その構想に合致させようと作品『ベロ出しチョンマ』を書いたのかは分かりません。

しかし、
作品集として伝えたかったことを一番よく具現化しているのが作品『ベロ出しチョンマ』であり、それがゆえに作品集のタイトルも『ベロ出しチョンマ』とするのが相応しいと作者や編集者が考えたのだろうと、管理人は確信しているのです。

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2.作品としての出来が最も素晴らしいから

作品集『ベロ出しチョンマ』の中で最も
面白い作品は何かと管理人が問われたら、キャッチーな作品を挙げようかと思っています。

例えば『八郎』『三コ』『モチモチの木』『ソメコとオニ』などです。

これらの作品は分かりやすく
明るい作品なので、誰にでもお勧めできる作品です。

『ベロ出しチョンマ』も面白いのですが、
陰鬱な雰囲気ですので、誰にでもすぐにお勧めという雰囲気ではありません。

では、作品集『ベロ出しチョンマ』の中で最も
工夫された奥深い作品は何かと問われたらどうでしょうか?

管理人は躊躇なく『ベロ出しチョンマ』と答えたいと思っています。

ずっと深読みして来た通り、『ベロ出しチョンマ』は短編ながら、実に
多様な読み方のできる奥深い作品になっています。

「出府の理由」
「直訴の成否」
「処刑時、長松のベロ出しへのウメの反応」
「現在までどうやって花和村が存続できたか?」
などの物語上重要と思われることを
明文化しないで、物語を成立させています。

必要と思われる文章さえ削りに削り、それでも読者に
感動を伝えられるように物語を構築しています。

作者の卓越した
文章技術を結集した作品なのです。

作者が作品『ベロ出しチョンマ』をどのように書いたのかは分かりません。

一発で書き上げたのかもしれませんし、
推敲に推敲を重ねたのかもしれません。

ただ、出来上がった時に
会心の出来だと思えたのではないでしょうか。

その思いは担当の編集者も同じで、表題作を『ベロ出しチョンマ』にするということは、お互いに
首肯出来たのではないかと想像できます。

そして表題作を『ベロ出しチョンマ』にしたのは大正解で、作品集は未だに版を重ねる
大ロングセラーとなっています。

もちろん他の作品の素晴らしさもあって読み継がれているわけですが、
表題作が傑作というのも、ロングセラーに大きく貢献しているのは間違いないと思います。

それぐらい、奥深く感動的な名作だと管理人も思います。


『ベロ出しチョンマ』が作品集のタイトルに選ばれたのは、作者や編集者が最もタイトルに相応しい、
短編としてよく出来た傑作だと判断したからだと、管理人は確信しているのです。

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3.情景が最も印象に残るから

『ベロ出しチョンマ』の主人公長松とその一家は、(はりつけ)で処刑されます。

この磔というのはどのような方法かというと、十字または人間の大の字の形をした
磔台に両手両足を縛られて、下部から槍で突くというものです。

この磔台の両手を縛られた
十字の形というものは、非常に印象に残ります。

滝平次郎(たきだいらじろう)の挿画でも印象に残るのですが、キリスト教の
十字架でも目にする機会が多いので、読者に心象風景として焼きつきやすいのです。

作品集『ベロ出しチョンマ』の中では、『モチモチの木』の夜に輝く木や、『八郎』や『三コ』の大男、『天の笛』の太陽なども心象風景には焼きつきますが、磔台の十字の形は、
最も読者に印象付けられる情景の1つだと思います。

情景が心に焼きつくと、読者は作品や作品集を思い出しやすくなります。

この情景が強く印象に残るということも、『ベロ出しチョンマ』が
表題作に選ばれた理由だと、管理人は確信しているのです。

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【この章の要約】
作品『ベロ出しチョンマ』が、作品集のタイトルになった主な理由は、
1.作品に書かれた内容や構成が、作品集の意図を最も具現化しているから
2.作品集の中で最も奥深い傑作だから
3.長松の処刑風景が最も印象に残るから
と、考えられる。


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